
警備会社を経営されている方から、
「警備契約書は普通の業務委託契約書で大丈夫ですか?」
「基本契約書はあるけれど、警備業法上の書類として問題ありませんか?」
「契約前書面、契約後書面というものを別に作らなければいけないのでしょうか?」
といったご相談をいただくことがあります。
警備業務の契約も民事上の契約ですので、契約書そのものについては、契約内容、料金、契約期間、責任関係、解除条件などを民法その他の関係法令に沿って定めることになります。
しかし、警備会社の場合はそれだけではありません。
警備業法第19条によって、警備業務の依頼者に対し、契約締結の「前」と「後」に、それぞれ一定事項を記載した書面を交付する義務があります。
警備業界では一般に、
「契約前書面(前書面)」
「契約後書面(後書面)」
などと呼ばれているものです。
今回は、2026年8月現在の警備業法、警備業法施行規則及び警察庁の運用通達をもとに、警備会社が契約関係書類を整備する際のポイントを解説します。
そもそも「前書面」「後書面」とは?
まず、2つの書面を分けて考える必要があります。
① 契約前書面
警備業法第19条第1項により、警備業者が依頼者と警備業務を行う契約を締結しようとするときは、
契約を締結するまでに、契約の概要を記載した書面を依頼者へ交付
しなければなりません。
これが、いわゆる「前書面」です。
つまり、
契約してから渡すのでは遅い
ということがポイントです。
② 契約後書面
一方、契約を実際に締結した場合には、警備業法第19条第2項により、
契約締結後、遅滞なく、契約内容を明らかにする書面を依頼者へ交付
する必要があります。
これが「後書面」です。警察庁も、契約締結前と締結後の双方について書面交付義務があることを明確にしています。
したがって、
「契約書を1通作って双方が押印したから、それだけで必ず大丈夫」
とは限りません。
警備業法上は、
- 契約締結前の説明・書面交付
- 契約締結後の契約内容の書面交付
という2段階があることを意識する必要があります。
前後書面に「決まった様式」はありません
ここは警備会社の方にぜひ知っていただきたいポイントです。
警備業法上、
「契約前書面はこの様式を使わなければならない」
「契約後書面はこの1枚でなければならない」
という決まった様式が定められているわけではありません。
警察庁の現行運用でも、契約前書面・契約後書面について、
それぞれ1つの書面である必要はなく、契約書、警備計画書、パンフレット等の複数の書面によって必要事項を明らかにしても差し支えない
とされています。
つまり、
書類の「名前」よりも、必要事項が記載され、適切なタイミングで依頼者に交付されているか
が重要になります。
「基本契約書のとおり」「発注書のとおり」と書いてあるけれど大丈夫?
実務では、
「詳細は基本契約書のとおり」
「警備場所及び警備時間は発注書のとおり」
「業務内容は警備計画書のとおり」
といった記載をしている警備会社もあります。
警察庁が複数の書面によって必要事項を明らかにすることを認めているため、契約書・個別発注書・警備計画書などを組み合わせる構成自体は可能と考えられます。
ただし、
「○○のとおり」と書けば、それだけで必要事項を記載したことになるわけではありません。
参照先となる基本契約書や発注書等が明確に特定され、実際に依頼者に交付され、その書類を含めて警備業法上の必要事項が確認できる状態にしておく必要があります。
そのため、
基本契約書のとおり
とだけ書いてあり、肝心の基本契約書に必要事項がない、
あるいは、
発注書のとおり
と書いてあるものの、どの発注書を指しているか分からない、
という状態は避けるべきです。
当事務所がおすすめするのは「基本契約書にできるだけ盛り込む」方法
警備業務では、現場ごとに警備場所、時間、人員等が変わることも多いため、すべてを1枚の基本契約書に固定することが難しい場合があります。
そこで実務上は、
基本契約書+個別発注書・警備計画書等
という構成が使いやすくなります。
たとえば基本契約書には、
- 警備業務の基本的な内容
- 警備料金や支払方法
- 契約期間
- 契約の更新
- 契約内容の変更
- 契約解除
- 再委託
- 免責
- 損害賠償
- 報告方法
- 苦情受付窓口
- その他の特約
など、会社として共通する事項をできるだけ網羅します。
警備業法施行規則でも、再委託、免責、損害賠償、契約更新、契約変更、契約解除、苦情受付窓口、特約等が書面の記載事項として規定されています。
そして、現場ごとに変動する、
- 警備場所
- 警備日時・時間帯
- 配置人数
- 担当業務
- 使用する資機材
- 警備方法
などを個別発注書や警備計画書で補完する形です。
このようにしておくと、契約のたびにゼロから書類を作り直す必要がなく、前後書面の漏れを防ぎやすくなります。
前後書面にはどんな内容が必要?
具体的な記載事項は、施設警備、交通誘導・雑踏警備、貴重品運搬警備、身辺警備、機械警備など、警備業務の種類によって異なります。
代表的なものとしては、
- 警備業務を行う日・時間帯
- 警備業務を行う場所
- 警備員の担当業務
- 必要となる知識・技能
- 制服・私服の別
- 使用する機器・資機材
- 鍵の管理方法
- 依頼者への報告方法
- 再委託に関する事項
- 警備料金
- 支払時期・支払方法
- 契約期間
- 契約の更新・変更・解除
- 免責
- 損害賠償
- 苦情受付窓口
- 特約
などがあります。
たとえば「担当業務」についても、警察庁は、施設警備であれば防犯監視・出入監視・巡回監視、交通誘導であれば車両・歩行者の誘導や雑踏整理などを例示しています。
自社の警備業務に合わせて必要事項を確認することが大切です。
契約に含まれない項目まで無理に作る必要はありません
警備業法施行規則には多くの記載事項がありますが、
「全部の会社が、すべての項目について具体的内容を書かなければならないのか」
という疑問もあります。
警察庁の運用では、契約前書面について、規則上の記載事項のうち締結しようとする契約に含まれていない事項については「当該契約には含まれていない」旨を記載すれば足りるとされています。
契約後書面についても同様です。
したがって、
必要のない事項を無理に契約内容として作るのではなく、
「該当する」「該当しない」を整理した書式
にしておくと運用しやすくなります。
「前書面と後書面が同じ内容なら1回渡せばいい」は注意
ここは非常に重要です。
契約前に説明した内容と、実際に締結した契約内容がまったく同じということは当然あります。
しかし警察庁は、
契約後書面が契約前書面と同一内容であっても、契約後書面の交付が必要
と明確にしています。
ただし、この場合には、
契約前書面を複写したものを契約後書面として交付することは可能
とされています。
つまり、
「内容が一緒だから後書面は渡していません」
という運用は避ける必要があります。
書面は「渡せば終わり」でもありません
警備業法施行規則では、依頼者が書面の内容を確実に理解できる方法で交付することも求められています。
警察庁はその方法として、
- 書面を十分読むよう伝えて交付する
- 内容を読み聞かせる
- 十分読んだ旨の記載・署名を求める
などを例示しています。
したがって、単にメールの添付ファイルを送った、机の上に置いてきたということだけではなく、
「依頼者に契約内容を明確に示す」という制度趣旨
を意識した運用が重要です。
メールや電子データでの交付も可能
現在の警備業法では、一定の要件のもと、依頼者の承諾を得ることで、紙の書面交付に代えて電磁的方法を利用することも認められています。
警察庁の運用では、
- 電子メール
- ウェブサイト上で閲覧・ダウンロードする方式
などが具体例として示されています。
したがって、契約書や前後書面について電子化を進めることも可能ですが、
単に紙をPDF化すれば何でもよいという意味ではありません。
電磁的方法を利用する場合には、警備業法・施行規則上の手続に沿った運用を確認する必要があります。
再委託の場合にも前後書面が必要です
元請の警備会社が受託した警備業務の全部又は一部を、別の警備会社へ再委託するケースもあります。
この場合についても警察庁は、
再委託を受ける警備業者から、再委託する側に対して契約前書面・契約後書面を交付する必要がある
としています。
「お客様と元請会社との契約書があるから、警備会社同士では必要ない」
というわけではありません。
警備会社間の契約についても、書面管理を確認しておく必要があります。
警備契約書は「法律」と「実際の運用」の両方から作ることが重要
警備業務委託契約書では、
民法上の契約関係だけを考えて、
「業務内容、料金、契約期間、損害賠償を書いたので完成」
としてしまうことがあります。
しかし警備会社の場合には、それに加えて、
警備業法第19条及び警備業法施行規則に対応した前後書面の仕組み
を契約実務の中に組み込んでおく必要があります。
おすすめなのは、
① 基本契約書に共通事項をできるだけ網羅する
② 現場ごとの条件は個別契約書・発注書・警備計画書等で補完する
③ 契約前・契約後のどの書類を前後書面として交付するのかを社内で決めておく
という方法です。
こうしておけば、
「担当者によって渡している書類が違う」
「昔から使っている契約書なので必要項目が抜けている」
「発注書に『基本契約のとおり』と書いているだけ」
といった問題を減らすことができます。
昔から同じ警備契約書を使っている会社は、一度確認を
特に、
- 何年も契約書を見直していない
- インターネットのひな形をそのまま使っている
- 前書面・後書面を意識したことがない
- 基本契約書と発注書を組み合わせている
- 前書面と後書面を同じものとして扱っている
- 警備計画書にどこまで書けばよいか分からない
- 再委託契約書を整備していない
- 契約書を電子化したい
という警備会社様は、一度現在の契約書類を確認することをおすすめします。
警備業法第19条の書面交付義務には罰則も設けられており、警察庁も警備業者に対して書面交付義務を遵守するよう注意喚起しています。
行政書士事務所RTSでは警備会社の契約書作成・見直しにも対応しています
行政書士事務所RTSでは、警備業の認定申請や各種変更手続だけでなく、
警備業務委託契約書、基本契約書、契約前書面・契約後書面など、警備会社が実際に使用する契約関係書類の作成・見直しについてもご相談をお受けしています。
単純に契約書のひな形を作成するだけではなく、
- 施設警備
- 交通誘導警備
- 雑踏警備
- 機械警備
- 再委託
など、実際に行っている警備業務を確認したうえで、
「基本契約書のどこまでを共通化するか」
「個別発注書に何を記載するか」
「前書面・後書面をどのように運用するか」
まで含めた形で検討することが可能です。
警備業は、認定を取得した後も、教育、備付書類、契約関係書類など継続的な法令対応が必要となる業種です。
「今使っている契約書で問題ないのか確認したい」
「警察の立入に備えて契約関係書類を整理したい」
「基本契約書と前後書面をまとめて見直したい」
「新しく警備会社を立ち上げるので契約書一式を整えたい」
という警備会社様も、お気軽にご相談ください。
警備業法を踏まえ、実際の営業・現場運用で使いやすい契約関係書類の整備をサポートいたします。
※本記事は2026年8月時点の警備業法、警備業法施行規則及び警察庁公表資料・運用通達をもとに作成しています。個別の契約内容や警備業務の種類によって必要な記載事項は異なるため、実際の書類整備に当たっては個別確認が必要です。
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